所用により、都心部をチンタラと走っていたときのことです。
その道をまっすぐ北に向かう私は、渋滞一歩手前の交通量の中、左車線をキープしたままボクスターを走らせていました。
で、いくつめかの赤信号で停止した際、自分が「左折専用レーン」にいることに気がついたのです。
外苑東通りは、ここ市谷仲之町交差点から先がいきなり片側一車線になっており、直進するにはその手前で中央の車線に移っておかないとダメなんですね。
左側の走行車線がこの交差点で左折専用レーンになることを知らずにいた私は、まんまと罠に嵌ってしまったのです。
困った私、大迷惑なのを承知で恐る恐る右ウィンカーを出したところ、親切にも中央車線のクルマがボクスターを前に入れてくれたため、無事に直進することができました。
すみません、ありがとうございます!
ハザード・ランプとハンド・サインで後続車および周囲のクルマに謝意を伝えながら、私は思いました。
人と人とのつながりが極端に希薄となっている現代の日本、そのショウ・ケースである東京。
行き交う無数の人々は誰もが自分のことで精一杯、困っている人がいても助けるどころか、見ぬふりをし、嗤[わら]い、あわよくば叩こうとさえする。
そんな灰色の街で他人の親切をアテにするなど愚の骨頂、自分が惨めな思いをするだけだ。
そう考えて、俺はこれまで生きてきた。
ところが、どうだ。
詰[なじ]られても仕方のないボクスターの進路変更を、周りのクルマがすんなりと受け入れてくれるではないか。
左折レーンに入ってしまった私の過ちを、何ひとつ対価無しに赦[ゆる]してくれるではないか。
この多幸感はなんだ、湧き上がる暖かな気持ちはなんなんだ。
そうだ、俺は間違っていた。
この世界は、人々の善意でできているんだ。
今日、この交差点でもらった親切を俺は決して忘れずに、何倍にもして人々に返そう。
そして幸せの花を咲かせ、愛の光が溢れる美しい世の中にしよ
・・・え?
指定通行帯進路変更禁止違反、1点。
左折レーンから黄色い車線を跨いで直進レーンに移るその一部始終を、警邏用自転車でやって来た待ち伏せ中の若い巡査に、電柱の陰からバッチリ見られていたのです。
いや、参った・・・。
・・・それでも私は、進路を譲ってくれた人たちの親切を忘れずにいようと思います(涙)。