何の冗談か、5月だと言うのに台風が接近していると言うのだ。
貸切露天風呂で目を覚まし、旨い朝飯を5杯も喰ってチェック・アウト。
ボクスターの屋根を空け、K40で森の中を走る。
R442から脇に入り、一度来てみたかった満願寺温泉に到着した。
キレイな川のすぐ脇にある露天風呂は、道路や家からリアルに丸見えだ。
駐車場の案内板に「日本一恥ずかしい露天風呂」とあったが、確かに恥ずかしいにも程がある。
200円を料金箱に投じ、素っ裸となって入浴。
それにしても、川面と同レベルの露天風呂は本当に気持ちいい。
イヌを無理矢理洗っていた地元のおじさんによれば、盛夏には子供たちが目の前の川で水遊びに興じ、体が冷えると温泉に飛び込むのだという。
実に雰囲気のいい、素晴らしい温泉であった。
R212を南に走り、昨日に続き阿蘇の外輪山へと向かう。
月曜日の大観峰は駐車場にも空きがあったが、それでも観光客で賑わっている。
曇り空で眼下の景色は霞んでいたものの、涼しい風が実に心地良かった。
R212をカルデラ内に下り、K111→K298と中央火口丘を走る。
しかし風が強く降灰が撒き上げられ、雨もポツポツ降り始めたため、阿蘇はもう十分と判断して下山した。
R325を東に向かいながら、今日これからの行き先を考える。
ボクスターを駐車帯に停めてスマートフォンで雨雲の状況を確認し、とりあえず雨が降っていなさそうな東へ向かうことにした。
R57沿いの道の駅「波野」で昼飯に高菜のおにぎりを頬張りつつ、本日の投宿地を宮崎県延岡に決定し、ホテルを予約する。
R57で東へと走るが、豊後竹田の街に入る手前の下り坂で、反対車線にパトカーや警察官、その先にレーダー発射装置。
そういえば、朝のTVニュースが今日から春の交通安全週間が始まったことを告げていた。
ここは登坂車線つきの広々とした道だ、知らずに走ってきたらひとたまりもないだろう。
対向車にパッシングとハンド・サインでスピード・ダウンを促しながら、自身もゆっくりと走る。
そう、私だってたまには世のため人のためにいいこともするのだ。
R502からK7へ左折すると、すぐに原尻の滝がある。
ナイアガラ的な作りの雄大な滝で、今回初めて知った迫力満点の瀑布だ。
柵も何もないのは通潤橋と同じで、ギリギリまでにじり寄って下を覗きこむとマジで袋が縮み上がる。
日本は広く、自身の知見は狭い。
まだまだ知らないところがたくさんあるんだなぁ・・・と、つくづく思った。
延岡までは、R326一本勝負。
完全2車線の山間快走路で、パラつく雨のために屋根を開けられないのが残念だが、ドライビングは存分に楽しむことができた。
宮崎県境を越えて走り続け、R10で延岡の市街地に入る。
チェック・インした「延岡第一ホテル」は旧いが立地も良くリーズナブルで、大浴場があるのもポイントが高い。
GTに出て一週間、溜まっていた洗濯物をホテルのコイン・ランドリーで洗った。
晩飯はやはりラーメンにしようと思い、数分歩いて昭和の香り漂うラーメン店「揚子江」へ。
延岡ラーメンというジャンルがあるのかどうかわからないが、トンコツなのにさっぱりとした塩ラーメンのようだ。
スルスルッと平らげて、セブン-イレブンでビールとつまみを買ってホテルに戻った。
窓の外では、風が強さを増している。
台風の影響が小さいといいのだが・・・。
■Day8
延岡市の朝、TVのトップ・ニュースは季節外れの台風6号。
外は予報通りの風雨となっており、テンションはひとつも上がらない。
こんな時期にやってくる台風には肚が立つが、よりによって直撃が心配される宮崎にいることにも肚が立つ。
九州の雨は風とともに夕刻まで続くとの由、部屋でサンドイッチを喰いながら今日はどこを走ろうかと考える。
・・・考えたが、どうしようもない。
今日は潔く「走り」を諦めて、とりあえず宮崎市でラーメンを喰おうと考えた。
幌を下ろせないボクスターでR10を南下、雨は緩急が激しく、ワイパーを全開にしたと思ったら止んだりもする。
ツーリングマップル3ページ分をのんびり走り、宮崎市郊外の「ラーメンマン(拉麺男)」に到着した。
ここは人気店のようで、なんと朝6時から営業しているとのこと。
店イチオシの「こってりとんこつ」はかなりのこってりっぷりで、食後もしばらく口の周りがベトベトするほどだったが、確かに旨かった。
風が強まる中、近くのイオンモール宮崎までボクスターを走らせ、館内のシアターで「ワイルドスピード スカイミッション(Fast & Furious 7)」字幕版の12時40分の回を観ることにする。
大荒れの中を走っていても仕方がないので、雨宿りだ。
GTでこんなことをするのは初めてだが、宿を取らない無計画な旅ならではのイベントだとも言える。
映画は大変面白く、理屈抜きで大いに楽しむことができた。
しかし、映画バリに走りたくても台風じゃどうしようもないよな・・・。
と思いつつ屋上のパーキングに出ると、何と雨は上がっており雲間から空が見えているではないか。
「18時まで降水確率70%」だったのに、15時過ぎで既に路面が乾いているのだ。
やはり、ツーリングの神様はいるに違いない。
つい先ほどまで、今日はこのまま宮崎市内に泊まろうかとも考えていたのだが、これで走らなきゃバチが当たる(笑)。
ボクスターのソフト・トップを解放してリスタート。
ヤシの樹が高く並ぶR220宮崎南バイパスを走っているうちに天候は急速に回復し始め、日南海岸をトレースするフェニックスロードでは雲は日向灘の彼方に押しやられていった。
文字通りの台風一過である。
いやもう最高、実にドラマチックな展開だ。
夕刻、宿まであと少しのところで飫肥[おび]の城下町に寄ってみる。
観光売店などは軒並み店じまいした後だったが、そのおかげで城址はとても静かであった。
日南の街を抜け、引き続きR220を走って本日の宿「ビジネスホテル・サーフィン」がある南郷に到着。
駐車場にボクスターを駐めて荷物を出していると、近くの中学校から帰ってくる生徒たちが皆「こんにちは!」と挨拶してくれる。
とても気持ちが良い。
晩飯は、近くのJR日南線/南郷駅前にある「お食事処 まつ」で、チキン南蛮としょうが焼きのセットを生ビールと共に平らげた。
しかし昼の超こってりトンコツラーメンと併せ、いくらなんでもカロリーの摂り過ぎではないのか?
あと半年で、50歳なのだ。
■Day9
宮崎県南部、南郷の朝5時半は快晴!
だが駐車場のボクスターは、グレイの細かい砂状のものにうっすらと覆われていた。
宿の主人によれば、半島反対側の桜島の灰が夜のうちに降ったのだという。
宿でホースを借りてボクスターを軽く洗い、サービスのおにぎりを喰って出発。
今日は、これまで訪れることが叶わなかった大隅半島を走りまくる所存である。
R448は日南フェニックスロードと呼ばれる交通量の少ない海沿いの痛快ワインディング。
走っている間に幌も乾いたため、ボクスターはオープンへとトランスフォームした。
K36で都井岬に立ち寄る。
野生馬が静かに草を食む美しい岬であるが、道の真ん中に落とされている馬糞には要注意である(汗)。
それにしても素晴らしい青空で、穏やかな風が本当に気持ちいい。
しかしその割に大隅半島の海岸線がハッキリしないのは、やはり桜島の灰の影響なのだろうか。
誰もいなかったR448はR220との併用区間になると交通量も増え、志布志の街に入ると前走車が降灰を撒き上げるようになる。
街を歩く人にマスク姿が目立つのは、おそらくそのせいであろう。
私もボクスターの屋根を閉じ、エアコンを内気循環にして堪え忍んだ。
国道を離れ、石油備蓄基地を左手に見る海沿いの道に出ると、灰は気にならないほど減っている。
スマートフォンで降灰情報を確認してみると、どうやらここから南は大丈夫のようだ。
再び幌を下ろし、改めて高速ワインディングを快走していると、JAXAの宇宙空間観測所があった。
守衛所で聞くと、受付を済ませれば中を見学できるのだという。
ボクスターでゲートの内側に入り、ロケットの実物大模型や巨大なパラボラアンテナなどを間近で見ることができた。
思いがけず、いい経験をさせてもらった。
海沿いから内陸へと向かうR448は、タイト&ルーズなコーナーやアップダウンが織り成す走り応えのある道となる。
しかしこの先に飯を喰える店などは無さそうなので、小さな食料品店で昼飯用のパンとコーヒーを買った。
K68を左折、山中の2車線路はまるでハイウェイのようだが、例によって広い道は突然終了、森の中の荒れた屈曲路へと姿を変える。
続くK74は大隅半島南部の沿岸まで一気に駆け下るタフなワインディングで、ブレーキングとステアリングに意識を集中してボクスターを走らせた。
最果ての景観ポイントとしてBMW Z4 Mロードスターに乗る
threetroyさんに教えてもらった陸上自衛隊佐多射撃場では、隊員の皆さんがデルタ翼のラジコン飛行機を飛ばしていた。
許可をもらってその様子を眺めつつ、買ってきたパンとコーヒーとでランチと洒落込む。
ちょうど昼休みなのでラジコンで遊んでいるのかなと思い、その旨を隊員の方に聞いてみた。
「いやいや、遊んでいるんじゃなくて、射撃用の標的を飛ばす訓練をしているんですよ!」
「そうですか、いや大変失礼しました(汗)。つまりドローンの一種なんですね。小型のプレデターみたいな」
「そうですそうです。しかしプレデターなんて良くご存知ですねぇ」
「いや、ははは・・・(←昨日観た映画「ワイルドスピード」に出てきたので知っていた)」
K74を半島中央部まで戻り、K68を西に向かう。
2車線の快適県道が突然途切れ、細い三叉路を前にどうしようかと思案していたところ、後ろから来た軽ワゴンのおじさんが声をかけてくれた 。
「カッコいいクルマだねぇ。でも独りかい?横にキレイなねぇちゃんでも乗せないとダメだよ」
道案内してやると言うおじさんの軽ワゴンの後について細い道を辿り、県道に復帰。
再びペースを上げてK68を快走し、ジャングルの中を行くK566へと左折した。
初めて訪れた、本土最南端の佐多岬。
駐車場では、巨大なガジュマルの樹が涼しい木陰を作ってくれていた。
ボクスターを置き、岬の先端まで遊歩道を歩く。
が、例によってアップダウンがキツく、49歳の足腰はすぐに悲鳴を挙げることになる。
GTに出ると、毎回必ず一度はこういう目に遭うのだ(涙)。
駐車場に戻り、汗だくの顔を洗って日焼け止めを塗り直す。
ボクスターの屋根を開け、似合わないキャップをかぶって走り出した。
関東とは明らかに違う、直上から照りつける強烈な陽射し。
ガキの頃から殆ど帽子をかぶったことはないのだが、オープン乗りの先輩諸氏が仰る通り、今回のGTで帽子は必需品だと思い知ったのだ。
半島北側のR269、左手に錦江湾を眺めるシーサイド・クルージングは実に爽快である。
K68→R220と北上を続けるうちにクルマも増えてくるが、それなりのペースで流れているため不満はない。
このまま桜島の麓を抜けて錦江湾の北端まで走り、今日は霧島にでも泊まろうか・・・などと考えていると、行く手の青空に突然真っ黒な雲が立ち上がり、どんどん大きくなってくるではないか。
15時30分、桜島が噴火した。
垂水の港付近にボクスターを停め、その様を呆然と眺めるだけの49歳。
巨大な噴煙は正にこれから行こうとする方向に流れており、あの麓を走るなんてとても正気の沙汰とは思えない。
いよいよ世界が滅びるんじゃないかと途方に暮れていたオッサンの目に映ったのは、フェリーターミナル。
よし、ここから海路で逃げようと思い立ち、フェリーで対岸の鹿児島市を目指すことに決定。
「渡りに船」とは、正にこのことだ。
満載のクルマと共に出港したフェリーは、40分ほどで鹿児島市の鴨池港に無事到着。
桜島は何事もなかったかのように青空に聳え、街は混雑しているものの至って平穏に見える。
ガソリン・スタンドのおにいちゃんに聞いてみても、「そうっすね、今日も噴火してたみたいっすねぇ」。
噴火でビビッていたのは、どうやら私だけのようなのだ(汗)。
今日はそのまま、フェリーの船内で検索/予約した市内の温泉旅館「ホテル満秀」にチェック・イン。
晩飯は黒豚とんかつを喰おうと繁華街まで歩き、「味のとんかつ丸一」で上ロースカツ定食を奮発した。
分厚いのに柔らかく、肉汁炸裂でたまらなく旨い。
満腹をさすりながら帰った宿の温泉は、茶色いアルカリ性。
浴感が素晴らしく、日焼けした腕もヒリヒリしないのだ。
今日も一日楽しく走ったが、噴火だけは参った。
桜島と共に暮らす鹿児島の皆さんは、本当に凄いと思った。
(つづく)