気温は20度を少し上回る程度で肌寒く、長袖のシャツを羽織って走る。
連日の真夏日と熱帯夜でアタマがおかしくなりそうな首都圏と較べれば、文字通り天国である。
最北へのルートは迷った挙句、
2年前の内陸路ではなく日本海沿いをひたすら北上することとした。
交通量僅少のR231を順調に北上していると、しかし雄冬[おふゆ]の先で突然の雨に見舞われることとなり、ルーフ・クローズを余儀なくされる。
雨はワイパーが追いつかないほどの豪雨となり、雷鳴も轟いている。
前を行くロータス・エリーゼに乗るのは、厚田[あつた]のセイコーマートで言葉を交わしたソロ・ドライバー。
長野から同じフェリーでやってきて、今日は宗谷岬を経由して一気に紋別まで走ると言うから、ざっと700kmレベルの行程であろう。
漢[おとこ]である。
そのエリーゼのテールも霞むほどの雨は、留萌の辺りでようやく収まった。
エリーゼと別れ、小平[おびら]・苫前[とままえ]・羽幌[はぼろ]・初山別[しょさんべつ]とR232を快走。
幌が乾いたのを見計らって再び屋根を開け、雲の切れてきた北の道を実に気持ち良く走った。
ところが天塩[てしお]まで来ると、またもやいきなりの暴風雨。
肚を立てながら幌を上げるものの、とても走れるような状態では無く、空き地への一時避難を余儀なくされた。
すぐ近くに落ちた雷のせいで町内は停電しており、信号が消えた土砂降りの交差点でお巡りさんが懸命に交通整理をしてくれている。
この天気では、D106/サロベツ原野へ向かっても意味は無いだろうな・・・。
ところが豪雨のR232を走っていると、なんと海の方は晴れていて利尻富士が見えるではないか。
ビックリ仰天しつつD106に出て走っているうちに雨はパッタリと止み、あろうことか青空までが戻ってきてくれた。
天気が劇的に変わることが、北海道ではままある。
ままあるが、変わりすぎにも程がある。
利尻富士を望むオロロンラインでカラッカラに乾いたソフト・トップを開け、オープン・ドライブを再開。
天候が激変する北海道の旅路において、ワンタッチで開閉できるボクスターのコンバーチブル・システムは、その威力を大いに発揮してくれたのであった。
稚内に入り、台湾料理店の「味源」で担々麺と焼豚玉子飯セットを注文。
ガツガツと平らげて汗を拭きつつ店を後にし、R238を宗谷丘陵へと走った。
道道を駆け上がって視界が拓けると、途中の豪雨がウソのような青空の下、緑成す丘の向こうに碧い海が拡がっている。
ここへは何度か来ているが、本当に素晴らしいところだとその度に思う。
アスファルトを離れて踏みこんだ未舗装路には貝殻が敷き詰められており、それがどこまでも続いている。
しかしながら、このまま海まで出ようと白い道を辿ってみたら行き止まり。
しゃーないなぁ、と苦笑いを催しつつ誰もいない最北の風景を心ゆくまで堪能してから、ボクスターをゆっくりとUターンさせた。
道北エリアの道道は、半端無い。
宗谷丘陵のD889、牧草地帯を南下するD1119とD121は、走り放題にも程がある無人の快速カントリー・ロードである。
5速メインでひたすら走り続けることができるのだが、ところどころに潜むバンプやアンジュレーションには要注意。
私も減速が足りずに一度、ボクスターのアンダー・スポイラーをガリッとやってしまった(汗)。
続く落合広域農道は、大規模な牧場の中を走る道。
広域農道は全国どこでもいい道が多いが、北海道のそれはまた輪をかけて素晴らしいとつくづく感じる。
草を食む牛たちを横目で見ながら、ボクスターを気持ち良く走らせた。
豊富[とよとみ]のホクレンで給油、サロベツ原生花園に立ち寄り、晴れたのに利尻富士が見えなくなったオロロンラインをもう一度走って草原の中に建つ宿に到着。
一昨年も泊まった「
あしたの城」は、ドミトリー主体の旅人宿である。
私は個室を取り、風呂を出てからビール片手に同宿の皆さんと談笑しつつ、名物の牛乳鍋を囲んだ。
夜、外に出てみると満天の星。
天の川なんて何年ぶりだろう、しかしどの星も滲んで見えるのはやはり加齢のせいなのだな(涙)。
札幌在住、稚内からクルマで帰る途中だと言う女の子も出てきて、星を眺めながら旅の話に花が咲く。
そう言えば、話をした同宿の旅人のうち、半数は道民の方である。
北海道在住なのに、道北エリアに来たのは今回が初めてと言う人も少なくない。
国土面積の2割を超える、「都内」や「県内」とはケタが違う「道内」のデカさを、改めて実感させられたのであった。